一軒家への憧れは、○○○な隣人から始まった
壁ドンで育んだ隣人との友情
仕事の異動で、1年ほど静岡に住んでいたことがある。
住まいはレオパレスのアパートだった。
レオパレスといえば当時、壁がそりゃもう薄いことで有名だった。
■レオパレス伝説■
・チャイム鳴らされたと思って玄関を開けたら、四軒隣の部屋だった
・チャイムが聞こえ今度こそはと思ったけど、やっぱり隣の部屋だった
・チャイムを鳴らしたら住人全員が出てきた
・ティッシュを取る音が聞こえてくるのは当たり前、携帯のポチポチが聞こえることも
・爪切りの音も聞こえる
・納豆をかき混ぜる音も
・壁ドンしたら壁に穴が開いた
・というか、穴が開いたあとも開く前と聞こえてくる音は変わらなかった
・壁に画鋲をさしたら隣の部屋から悲鳴が聞こえた
などとネット上には書かれていた。
ボロカスである。
さすがにそれはオーバーだが、元レオパレス住人として確かに当時壁が薄かったのは間違いない。
実際、隣の部屋の住人と同じテレビ番組を見ていたらしく、同じタイミングで笑うことは往々にしてあった。
向こうが笑う。
ぼくも笑う。
壁を挟んだ謎の副音声。
それくらい壁が薄い。
よく壁ドンもされた。
こちらも壁ドンをし返した。
イケメンがレディを壁際に追い詰め、手でドンと壁を叩いて逃げ場をなくす、あのドキドキするらしい壁ドンではない。
シンプルに、
「うるせーんだよ、静かにしろや!」
と呪詛を唱えながら壁をドンドン叩く方の壁ドンだ。
隣人と言葉を交わしたことは一度もない。
それでも、ぼくらは壁を通して着実に熱い友情を育んでいた。
友情は厚く、壁は薄い。
山田くん座布団1枚!
コミュニケーション手段は、オンリー壁。
そんな関係が続いたある日、ぼくはふと思った。
隣には、どんな奴が住んでるんだろう。
壁が薄いので、隣人が部屋を出るタイミングはすぐにわかる。
よし。
隣人の顔を拝ませてもらおうじゃねーの。
足音。
鍵の音。
ドアを開く音。
来た。
ぼくは自分の部屋のドアについているドアスコープを光の速さで覗きに行った。
一切やましい気持ちはない。
ただ、壁ドンで友情を育んだ友の顔を一度見ておきたかったのだ。
…..どれどれ?
ん????
スッじゃねーよ。
隣人はまさかのフルフェイスヘルメット+ライダースーツだった。
どうやらバイクで仕事へ行っているらしく、部屋を出る段階からすでにフルフェイスヘルメットを装着しているようだ。
なんて奴だ。
まるで隙がない。
デ〇ノート対策でもしてるのかこいつは。
結局隣人について分かったのは、毎週観てる番組と、壁ドンの強さと、部屋を出る時にはすでにフルフェイスヘルメットであることだけだ。
そんな部屋に、当時付き合っていた彼女が会いに来てくれることがあった。
電車で片道3時間ほどかけて。
今の妻だ。
彼女はわざわざ3時間かけて来る。
そりゃもちろんうれしかった。
ただ、部屋で話していても笑っていても、どうしても壁の向こうが気になる。
たぶん隣のフルフェイスに聞こえている。
テレビの笑い声すらシンクロする壁だ。
ぼくらの会話だけ都合よく遮断してくれるとは思えない。
部屋にいるのはぼくと彼女の二人。
そして壁一枚向こうに、フルフェイス。
姿は見えない。
でも、そこにいる。
壁の向こうから生活音が聞こえる。
ドンドン!
ほらきた。
すかさずこちらも反応してやる。
ドンドン!
「ねえ、大丈夫なの?」
彼女が心配そうに言う。
至極真っ当な心配である。
その頃から、ぼくは一軒家に憧れるようになった。
庭でバーベキューがしたいとか、広いリビングが欲しいとか、そんな立派な理由ではない。
ただ、壁の向こうに誰もいない家が欲しかった。
愛する人と笑った時、隣から壁ドンが返ってこない家。
片道3時間かけて会いに来なくても、いつか同じ家に帰れる暮らし。
そんなものを、あの薄い壁の部屋で少しずつ想像するようになった。
あれから月日が経ち、ぼくは彼女と結婚した。
長女の誕生と同時期に憧れのマイホームも購入した。
今では3人の子どもがいる。
ぼくの一軒家への憧れのきっかけは、住宅展示場でも家族団らんのCMでもない。
静岡のレオパレス。
ドアスコープの向こうをスッと横切った、あのフルフェイスヘルメット野郎から始まった。
住宅展示場の営業マンより先に、ぼくに一軒家の夢を見せてくれた男。
顔は知らない。
何度かトライしたけど、マジでずっとフルフェイスだったから。
ありがとう顔も知らぬ友よ。
今日もバイク乗ってるかい。
暑いからまめに水分摂れよ。
その時は、ヘルメットを脱いで顔を見せてくれよな。
あの時の壁ドン、効いたぜ。
終
てるまに
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
日常のしょうもない出来事を事件として笑える記事に変換して発信しています。
登録ボタン押してもらえたらぼくが椅子から転げ落ちて喜びます。
大丈夫、いくら壁が薄くてもクリック音までは聞こえません。
安心して押しちゃってください。
またね。







クコさん、いつもありがとうございます😊
薄い壁を増やせば一軒家が売れる.....、天才の発想だよクコさんwww
奥さん(当時の彼女さん)だけでなく、
フルフェイスさんとも一緒にたくさんの思い出を築かれていたんですね!
ブレーキランプ5回がア・イ・シ・テ・ルのサインであれば、壁を強く2回は何のサインでしょうか
やれ!とかおせ!とかいけ!とか
実は応援だったりしたのかもしれませんね!