16年前、ぼくの漫画みたいなネット恋愛は終わった。
承認欲求に翻弄される者たち。
この記事は(前編・後編)の後編です。
前編を読んでから後編を読んで頂けると、より楽しめるかと思います。
前編はこちらです👇
それでは後編スタートです。
ひなとネット恋愛をスタートさせたぼくは浮かれまくっていた。
しかし1つ大きな問題があった。
ネット恋愛ッテ ナニスレバ イインダ?
今でこそ、
マッチングアプリで出会いました!
出会いはネットです!
と公に堂々と言えるような時代になったものの、2010年当時はまだネット恋愛については警戒心と憧れが混在していたように思う。
ネット恋愛は危険!
会ったこともない相手を信用するな!
騙されてるぞ!
など、まだまだ否定的な意見が多かった。
実際ぼくもひなと付き合うまでは、ネット恋愛については半信半疑だった。
ひなもネット恋愛は初めてだと言っていた。
だから、まずはお互いを知ろうということになった。
2人でまずやったこと。
お互いに本名を明かした。
お互いの携帯(当時はガラケー)番号を交換した。
毎日続いていた通話はカメラ通話となり、お互いの顔を見ながら話すようになった。
話す内容は大学であったこととか、バイトの話とか、本当にただの日常話。
ただ、離れて暮らすぼくたちにとってはお互いを知る為の貴重な時間だった。
こんなこと妻に言ったら〇されるかもしれないが、ひなはとにかく可愛かった。
これは誇張抜きで伝えておきたい。
当時のぼくには、可愛い子は性格が悪いという、物凄く失礼な謎バイアスがかかっていたが、ひなにはそのバイアスを正面からぶっ壊すほどの魅力があった。
ひな「ああ、てるまに様の声になりたいです」
ひなは拗らせてちょっともう怪しい宗教信者みたいになっていた。
てるまに教の誕生である。
通話でも自然に様付けしてくるので最初は引いていたが、人間慣れとは怖いもので、途中からは何とも思わなくなっていた。
そんなかつての自分に、今のぼくが引いている。
会う約束もしていた。
東京を案内したいとひなは言ってくれた。
ぼくはとにかく浮かれまくっていた。
いまだに何故か覚えている会話がある。
ぼく「携帯がない!」
ひな「今電話してるじゃないですか笑」
ぼくは当時からポンコツだった。
ひなは生放送を続けていた。
放送内容は伏せるが、配信は毎回お祭り騒ぎだった。
ぼくの記憶ではアクティブユーザー数が3000~4000人の回もざらにあった。
間違いなくトップクラスの生主として、ひなはニコニコスターダムを駆け上がっていた。
コメント欄は男たちの欲望渦巻くコメントで埋め尽くされ、右から左にまるで流星のように流れた。弾幕職人・アート職人など、大量のコメント職人も常駐していた。
当時、“ニコニコ生放送リアルタイムランキング”というサイトがあった。
Substackで言うサブスタ番付みたいなものだ。
群雄割拠のニコ生時代だったが、ひなは毎回必ずTOP10には入っていた。
2chのスレッドも相変わらず。
個人を特定しようとするスレッドも乱立しはじめていた。
結構危ない時代だった。
放送後は決まってひなと通話しながら、配信の振り返りみたいなことをやっていた。
…..ただ、その頻度は少しづつ減っていく。
ぼくも生放送を続けていた。
生放送は楽しかった。
コメントを読むのが好きだった。
コメントからその人の考えている事に思いを馳せるのが好きだった。
いつも話を広げすぎてコメントが読み切れないまま放送を終わっていた。
当時のニコ生は30分で1枠。
終われば次の枠を取り直し、開始直後には「わこつ」コメントが流れた。(枠取りおつかれさまの略)
…ひなは、最近放送に来ていない。
忙しいんだろう。
ここ数日。
ひなとの連絡がとれなくなっていた。
電話も、Skypeのチャットも反応なし。
不安だった。
何か怒らせてしまったのか?
最後に通話したのは、ひなが次の配信でやると息巻いていた、氷を素手で割るとかいうマジで意味不明な企画についての相談だったと思う。
そんな時、ぼくは2chで気になるコメントを見つけてしまう。
〇〇というのは、ニコ生界隈ではいわゆる大物生主と呼ばれるユーザーネーム。
女性配信者を自分のビッグネームで有名にしてやると言い寄り、リアルで会うように迫る。まるでどこぞの芸能プロダクションのお偉いさんだ。
これが本当なら、ひなは大丈夫だろうか。
ぼくはそれから死んだような顔で生活した。
大学に行く気力が湧かない。
バイトは生活があるので行ったが、マダムにショーケースのケーキを端から全種類買わせたあのカリスマホストのような接客はもう出来なかった。
あんなに好きだった生放送も配信する気になれなかった。
ぼくは分かりやすく落ち込んでいた。
ひなと〇〇は付き合ってる。
真偽も分からないままだが、何となくこれで終わりだという予感がしていた。
ひなは配信を続けた。
ぼくは女々しいと思いながらも、配信を聞きに行く。
ひなは変わらぬ笑顔でコメントを読んでいる。
ぼくはコメントを打つ。
何と打ったのかもう覚えてないが、
そのコメントは膨大なコメントの波にあっという間に押し流され、ひなの目に留まることはなかった。
無力だと思った。
リアルで会ったことはない。
顔を見ながら電話で話しただけ。
それで付き合っていると思っていた。
童貞か。
ここは一方が連絡を絶てば簡単に繋がりの消える世界。
ぼくはネット恋愛というワードに憧れていただけ。
可愛い子に好きだと言われて浮かれていただけ。
そう。
自分の承認欲求を彼女で満たしていただけだった。
その頃、skypeに何人かから「大丈夫ですか?」というような内容のチャットが飛んできていた。
放送にいつも来てくれる人たちが、最近放送がなくて心配してくれていたのだ。
ぼくは泣いた。
6畳1間、家賃38,000円の部屋でひとりで泣いた。
隣人からも壁ドンされて激励された。
配信しよう。
またバカみたいに声真似やって、ゲーム実況やって、みんなで笑おう。
元に戻るだけだ。
もう忘れよう。
配信ボタンを押す。
「久しぶり、ごめんね~!」
努めていつもの調子で話し出す。
「待ってました」
「わこつ」
「なにかあったんですか?」
コメントが温かい。
ぼくは試験勉強に集中してたと嘘をついた。そんなのまともにやったことない。
「ギリギリ単位取れてさ〜」
とりとめのない話を重ねる。
今日のコメントはいつも来てくれるコテハンの人たちが多い。
そんな中。
あるコテハンが目に留まる。
ごめんなさい。@hina
※実際と異なりますが、分かりやすくhinaとしています。
ぼくとひなで決めたひなのコテハン。
ひなだ。
ごめんなさいってなんだよ。
そんなの、Skypeで言えよ。
電話で言えよ。
そういう、ドラマチックなのいらないんだよ。
・・・なんで。
なんで、ごめんなさいなんだよ。
放送中なのに頭がぐちゃぐちゃになる。
なんでこの子はいつもこんなにぼくを悩ませるんだろう。
結局ひなのコメントはスルーして、ぼくは謎のプロ意識で30分の枠を自然に終えた。
すぐにひなに電話する。
あれだけ無視されてたのに、今回はワンコールで出た。
ひな「もしもし」
ぼく「・・・どうしてた?」
何から聞いていいのか分からない。
どうしてた?
格好つけんな。ストレートに聞け。
ひな「もう、通話できないんです」
ぼく「なんで?」
話を聞くと、ひなが〇〇と付き合っているという噂は本当だった。
〇〇から猛烈にアタックされ、気の迷いでOKしたのだという。
もっと有名になれるかもしれない。
ひなも承認欲求に囚われていた。
コミュニティ人数が増える度、ランキングで1位になる度。
もっと有名になりたい。
日に日にその思いが強くなっていったそうだ。
実際、最近の配信内容は雑談ではなく、少し過激なものになっていた。ちなみに氷は素手で割ろうとしてちょっと怪我してた。あの配信、怪我大丈夫だったのか聞くと、「見てくれてたんですね」と笑った。
ちょっといつもの空気で話した後。
ひな「てるまに様ごめんなさい。私、もっともっと有名になりたいんです」
まだ”様”付けてる。
結局最後まで直らなかったな。
ひな「てるまに様のこと好きです。でも〇〇さんに付いていくって決めたんです」
ぼくはこの時、何て返したか正直覚えていない。
付き合ってると思ってたけど、こんなに堂々と浮気されると思ってなかった。
でもそれくらいぶっ飛んでないと、ニコニコでは生き残れないかもな。
みたいなことを言った気がする。
とにかく当時の僕は格好つけだった。
本当はもっと自分の黒い感情をぶつけたかった。
でも気づいてしまった。
ぼくはひなに一度も好きと言ったことがない。
思えばこれまでの人生、いつも受け身だった。
自分から誰かに好意で何かをしたことがない。
“本当に私のこと好きなの?”
リアルで付き合っていた子にそう言われて振られたこともある。
ぼくはひなのことが好きなのか?
単に顔が可愛いから好きなだけなんじゃないか?
ひなのまっすぐな好意にたじろぎながらも、好きと言ってくれたことが嬉しかった。
でも、ぼくにはそれに応えるだけの資格がない。
ひなの好意に甘えていた。
そりゃ浮気もされる。
…..女々しい野郎だ。
ほどなくして、ぼくはニコニコ生放送をやめた。
ひなのこともあって、ネットから少し離れたかった。
あとは、就職活動で忙しくなってきたというのもある。
当時は就職氷河期と呼ばれた絶賛買い手市場。
「ニコニコ生放送でコミュニティ人数1,200人です」
では採用されないのだ。
ひなは、数年後に突如コミュニティを解散した。
理由は分からない。
2chには憶測しか書かれていなかった。
当時本人に連絡も考えたが、さすがにキモいと思ってやめた。
きっと彼女も、様々な葛藤の末の決断だったんだろう。
こうしてぼくの漫画みたいなネット恋愛は、思ったよりあっけなく終わりを迎えた。
◆おわりに
月日が経ち、ぼくは社会人になった。
運命としか思えない人に出会い、初めて自分からアタックした。
付き合って5年で結婚。
今では3人の子どもがいる。
16年前のあれが恋だったのか、承認欲求だったのか。
今でもよくわからない。
承認欲求は悪者ではない。
誰かに見つけてほしい。
選んでほしい。
光を当ててほしい。
その気持ちがあったからぼくは配信ボタンを押せたし、ひなにも出会えた。
ただ、あの頃のぼくは「選ばれること」に浮かれて、自分から一度も「好き」と言えなかった。
でも、今は子どもたちに恥ずかしがらず愛してると伝えている。
もちろん妻にも。
ひなは今、どこで何をしているのか。
とにかく元気でいてくれたらいい。
あと、もう氷を素手で割ろうとしたり、危ないことしてなきゃいいな。
終
てるまに
【あとがきみたいなやつ】
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
これにて「16年前の漫画みたいなネット恋愛」完結です。
前編投稿後、後編もすぐに書き始めたのに、公開まで1週間。
亀ですorz
ひなは不思議な女の子でした。
当時のニコ生民がひなに惹かれたのは、容姿だけではなく、自分のしたいことに真っすぐな、あの人柄だったように思います。
画面の向こうには、ちゃんと人がいる。
それはSubstackでも同じですね。
こんなポンコツの16年前の話に最後まで付き合ってくれた皆さん。
本当にありがとうございました。
購読してくれたら、椅子から転げ落ちて喜びます。
またね。






待ってました!後半!とても読み応えがありました。当時の時代感が手に取るように感じるあたり私もインターネット老人会です👴
当時ならこのお話もケータイ小説→書籍化→映画化される勢いですね🎬主演は山田孝之でお願いします🤲
本当に漫画みたいな…貴重な体験をしましたね。今の奥様と出会う為に必要な時間だったのでしょうね。
テルマにさんを、椅子から転げ落ちさせたかったけど、既に購読済みだった〜🤭笑